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男女公論

2010/11/11 UPDATE #004

坂本龍一×湯山玲子 男女公論

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第十章
「絶滅種のオトコvs草食系男子」

坂本:地中海に棲んでいるベニクラゲ(※1)って、あるところまで老けると退行して赤ちゃんになっちゃう。不老不死の生物なんだよ。

湯山:ベンジャミン・バトン(※2)な生物ですね。地球上のすべての生物のセオリーと違う。地球外生物なんじゃないか?

坂本:地球の生物でも結構いろいろあるんだよ。ある森の全部の木のDNAが全部同じ、とかね。つまり木が何千本もあるんだけど、ひとつの生命体っていうか、まったく同じDNAを持っているっていう森もある。だから面白いんだよね。

湯山:手塚治虫(※3)萩尾望都(※4)のマンガに同様のイメージが出て来ますよね。生物はもともとは細胞分裂で仲間を増やしていたわけだから、オスメスの必要は無かったわけなんだけど、どうしてかオスメスの区別ができちゃったんですよ。

坂本:あと、生殖するときだけオスになるっていうのもあるし。オスとメスだけじゃない、両性具有。牡蠣なんかもそうだし。結局は生命の基本はメスってことなんだよね。人間のオスは、お母さんのDNAを次の女性に伝えるためだけにいるって話もあるくらいだから。だってメスの染色体がエラー起こしてY染色体(※5)になったのがオスだって言うからね。

湯山:そう考えると生物として男性の必要性って希薄なんだけど、逆に考えれば、その「生物としての責任」みたいなものがないから、女性からすると本質的に自由に見えるんだよね。不必要=余剰があってこそ文化は生まれ、発展するわけで、男性に適した領分なんだろうな、と思う。

坂本:必要のないものだからこそ色っぽかったりね。

湯山:そう! カルチャーのキモはそこです。不必要なものの宿命的悲しさは色っぽいんですよ。李朝白磁(※6)の壺の丸みが女性のお尻にたとえられたり。

坂本:とはいえ、生物としてみたら我々男性は生きているうちの90%は女性のこと考えなくちゃいけない。女性は、そこにいるだけでちゃんとオトコが欲情してくれるようになっているはずなんだよね。ただ、文明がこうなっちゃってるから、今は不幸なことに女性が男性を欲情させようと「女装」しないと、オトコが動かなくなっちゃってるんだよね。

湯山:坂本さんとかそういう意味では絶滅種のオトコと言える(笑)。こういうタイプは「女装」には引っかからなくて、オンナそのものの実力に引っかかる。

坂本:今や希少種だからね(笑)。でもね、優秀なオトコほど本来の男性性を持ってる。その話をしみじみとしたのが、北野武(※7)さん。あんなにすごい人が、「人生の8割以上は女のことしか考えてなかったんだよね。でもその一割でも仕事に使えばいい仕事が出来たのになぁ、なんて。でもそういうオトコの方がいい仕事してるよ、絶対に。

湯山:そこは経験値としてありますねー。そういえば、坂本さんの本にも書いてあったけど、学生時代に全共闘運動(※8)に血道をあげ、大暴れした理由は女にモテたかったって......。

坂本:そりゃそうですよ。当然ですよ。オトコにはそれしかないんはずですよ(笑)。いいオンナをゲットしたいって。ITで儲けたいとか、ファッションだとか言っている人たちもみんなそうだよ。

湯山:となると、草食系男子(※9)はそこらへんの欲望が薄いわけで、国を憂うるオヤジたちが彼らを毛嫌いする意味がわかりますな。

坂本:そうだね、彼らが国を動かしていくとしたら、絶対に衰退するね。あと面白いのがね、イワヒバリ(※10)っていう山の岩場に棲息している鳥なんだけど、メスが求愛行動をするの。メスがとにかくオシリを出してバタバタやってるの。しかも一羽のオスに対してだけじゃなくて、何羽も。とにかくオトコに求愛しまくってる。

湯山:わははは。まさに現代のモテを目指し、女っぷりを上げようと努力する女子たちを彷彿とさせますな。しかし、イワヒバリよりもオトコが振り向く確率が少ないというご時世だから女性の悩みは深い。

坂本:ホモサピエンス(※11)のことで言えばね、女性自身は自覚しているのかわからないけど、女性が発情しているときの香りってのがあるんですよ。僕はそれが好きでね(笑)。

湯山:えーっ!? 

坂本:なんか突然出てくるよね、女性から。自覚はない?

湯山:これ、初めて男性から聞いたなぁ。いやー、自分は出してないと思う。出てるかどうか、まったく自信がない(笑)。女性にとって男性の香りは、どっちかっていうと安らぎとか親しみって感じですよ。逆にオトコがやる気ギンギンになっている時に、そういう香りは出せるのかな? これ、私だけのサンプリングではあまりに心もとないので、周囲の艶福家オンナたちに聞いてみます(笑)。

坂本:ゾウは発情期が1年のうちに3日くらいしかないんだけど、本当に短いから、その時にメスのゾウは発情してますよって合図で皮膚の色が変わるの。それと同じで、人間にも体の変化を表す化学物質が出てる。

湯山:じゃあ、私がやる気マンマンのときは、オトコはわかってるってこと? でもそれって直接な臭いではないんでしょ?

坂本:全然わかってる(笑)。はっきりとした臭いだよ。息の臭いが変わったり......。

湯山:オーケー! ソノ時は、ハアハアしてみる所存(笑)。コレ、どっかのメーカーが、そういうガムとか研究していそうだな。

次章へ続く・・・

(※1)ヒドロ虫綱に属するクラゲの一種。
普通のクラゲは成熟した後に死ぬが、ベニクラゲは再びポリプへと退行可能。これにより個体としての死を免れており、「不老不死」のクラゲとして知られている。
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(※2)アメリカ映画『ベンジャミン・バトン 数奇な運命』(2008)の主人公のこと。
80歳のカラダで生まれ、年を重ねるごとに若返っていく男の一生を、ブラッド・ピットが特殊メイクを施して演じ切ったことで話題となった。
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(※3)『鉄腕アトム』『火の鳥』『ジャングル大帝』など、マンガ史に燦然と輝く作品を多数世に送り出してきたマンガ家。その功績から"マンガの神様"と呼ばれる。
医師免許を持っていたことも有名で、『ブラック・ジャック』に代表されるように、医学や科学を題材にしたアカデミックな内容の作品も発表している。
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(※4)『ポーの一族』『11人いる!』『イグアナの娘』などで知られるマンガ家。
ドラキュラや精霊などの架空のキャラクターが登場するSF色の強い作風が特徴で、『X+Y』のように、性遺伝子をテーマとして扱っている作品も多数。
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(※5)性染色体の一つ。正常なオス個体ではX染色体と同時に存在(XY)し、正常なメス個体には存在しない(XX)。
オーストラリア国立大学教授のジェニファー・グレーブスは、2002年に『ネイチャー』に発表した論文中で、Y染色体が将来的に消滅する可能性を指摘している。
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(※6)朝鮮半島の最後の王朝である李氏朝鮮(1392-1910)時代、17世紀後半から18世紀にかけて多く作られた磁器。
朱子学において高貴な色とされる白を基調とした、優美なたたずまいを持つ壺や器などが有名で、芸術面でも高い評価を得ている。

(※7)言わずと知れたお笑いタレント、映画監督、俳優。
タモリ、明石家さんまとともに、日本のお笑い芸人「ビッグ3」として認められている他、映画監督としても活躍。「世界のキタノ」として海外から絶大な賛辞を得ており、先日はフランスの最も権威ある文化勲章であるコマンドゥール章を受勲した。
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(※8) 1968年頃の大学闘争の時期に、日本各地の大学に作られた学生運動組織を総称した呼び名。正式には全学共闘会議。
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(※9)2008年頃よりメディアで取り上げられはじめた用語。
詳細は、第九章参照。
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(※10)高山帯、高木限界より標高の高いハイマツ林や岩場に生息する鳥類の一種。
鳥類には珍しくメスが求愛行動を行う鳥として知られている。ちなみにオスは、「チョッチョッチリリリ」とさえずりながらメスの求愛に応えるらしい。
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(※11)現人類を含む、直立姿勢を完成した脳の大きな人類のこと。つまりヒトの学名。
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PROFILE

湯山玲子 1960(昭和35)年・東京生まれ。
出版・広告ディレクター。(有)ホウ71代表取締役、日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。
編集を軸としたクリエイティブ・ディレクション、プロデュースを行うほか、自らが寿司を握るユニット「美人寿司」を主宰し、ベルリンはコムデギャルソンのゲリラショップのオープニングで寿司を握るなど日本全国と世界で活動中。
著作に文庫『女ひとり寿司』(幻冬社)、『クラブカルチャー!』(毎日新聞出版局)、新書『女装する女』(新潮社)。近著に『四十路越え』(ワニブックス)。プロデュースワークに『星空の庭園 プラネタリウムアフリカーナ』(2006夏 六本木ヒルズ展望台)、2009年まで通年の野宮真貴リサイタルなど。

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