HOME > commmonsmag > 男女公論

commmonsmag

男女公論

2010/11/11 UPDATE #004

坂本龍一×湯山玲子 男女公論

back number

第二章
「あぶく銭持って使うことに慣れないと、文化って繁栄しないですよね。」

湯山:それにしても、食に対してこんな欲望がある国も珍しいんじゃないかな。

坂本:でも、そうなったのもこの15年くらいのことでしょ。一部の人たちの間にこういう文化はあったけど、一般大衆がここまで突っ込んできているから。食も音楽もファッションもそうだけど、フランス然り、ローマ帝国然り、あぶく銭持って使うことに慣れないと、文化って繁栄しないですよね。

湯山:日本はバブルの時期に短期集中型で経験しましたね。

坂本:ちょっと時間が短かったよね(笑)。それでも、あの時期に、普通の女子高生がイランの映画観たりとか、今のアメリカでも考えられないくらいのことが起っていたでしょ。それが定着して今でも続いているから、それは良かったと思うんだよね。だからお金を持つ事は、悪い事じゃないんだよね。使い方だよね。

湯山:一般の人が、皇帝の世界みたいに、寿司を食べられるわけですもんね。もっと感謝してもいいはずなのに、それがみんなにとって普通になると、そうは思わないんだよなあ。まあ、そういった皇帝生活の日常化の代償として環境問題があったりするわけだけど。

坂本:今ね、乗用車で、ハイブリッド車(※1)じゃなくて、ガソリン車で運転すると、CO2の排出量でいうと、昔の参勤交代で大名が千人くらい家来を連れて歩いているのと同じくらい二酸化炭素を排出しているんだって。だから、いま一般人でも大名くらいの生活してるって言ってもいいよね。

湯山:一億総大名(笑)。これじゃ、地球ももちませんってことになる。

坂本:この前、ミシュランガイドの東京版(※2)がまた出たけど、湯山さん的に見るとどんな感じ?

湯山:わりと反ミシュランにまわる人が多いですけど、私は案外相性いいんですよ。フレンチの「カンテサンス」(※3)は、開店後に前情報無しで行って、感動していろんな人に触れ回っていたんだけど、去年、三ツ星に抜擢されました。日本のグルメ・ソサイエティだと、そこまでの決断は出来ないと思う。今年二ツ星を獲得した「海味」(※4)っていう寿司屋も結構、無視する空気が業界にはあったんだけど、ミシュランは取り上げましたね。ここ、寿司屋のストイックイメージと真逆のエネルギッシュでピカレスクな店。文学的なヒエラルキーって寿司を取り巻く言説の中では強くって、武士は喰わねど高楊枝じゃないけど、派手だったり豊かなものは嫌いですよね。

(※1)作動原理が異なる動力源を併せもち、ガソリンエンジンで走る従来の車よりも、環境負荷の低い実用車として注目を浴びている自動車のこと。
昨今では、シェアNo.1を誇るトヨタ「プリウス」や、低価格を売りとするホンダ「インサイト」の熾烈なシェア争いが話題に。
(⇒詳細はこちら

(※2)フランスのミシュラン社が発行するレストラン・ガイド。味・サービス・内装すべてに優れた店を星付きで評価するスタイルで、世界的権威を持つ。東京版は2008年版が初刊行。翌2009年版では、本場パリを抑えて「もっとも星を獲得した美食都市」としての称号を得た。
(⇒詳細はこちら

(※3)東京都白金台にあるフレンチ。弱冠34歳のシェフ、岸田周三氏が生み出す素材の持ち味を徹底的に追求した革新的なメニューの数々は、2006年のオープン以来、日本フレンチ界に新風を巻き起こしつづけている。
(⇒詳細はこちら

(※4)全国各地の旬のネタが揃う、東京都南青山の寿司店。「ありのままの海の味を伝えていきたい」という信念のもと、威勢のいい店主の長野充靖氏が握る寿司は、丁寧かつ繊細。さしずめ上質のショーを演出するような感覚で、粋なコメントとともに宝石のような寿司を提供してくれる。

坂本:侘び寂びじゃないとダメ、みたいな。

湯山:店主がスキンヘッドで、ハーレー乗りなんですもん(笑)。客もどうも、遊び人っぽい愛欲の強者系が多い。私はそういうの好きなんですけど。しかし、ここの寿司は大将のキャラと裏腹になかなかに繊細。音楽家もそうだけど、そんなキャラクターを持った人間が、それとはまったく違う作品を出す、ってのはありますよね。

坂本:映画『アマデウス』(※5)もそうだったもんね。モーツァルトがあんな天使のような音楽書いているのに、すごい女ったらしでお酒が好きでどんちゃん騒ぎばっかりしている、っていう。もちろんそういう面を描き過ぎている作品ではあるけど、多分きっとそういう面もあったんだろうと思うし。

湯山:「海味」もまさにそのとおりで、本当に繊細で魚オタクともいえる探究心の結晶のような寿司が出てきます。私はそのギャップが好きでそこに通っているんですけどね。

次章へ続く・・・

(※5)1984年にアメリカで製作された映画。若き天才音楽家モーツァルトの半生を、彼の才能に嫉妬を燃やす年老いた音楽家サリエリの目を通して描く。
第58回アカデミー賞では、作品賞、監督賞、主演男優賞ほか主要8部門を獲得。今なお不朽の名作として語り継がれている。
(⇒詳細はこちら

PROFILE

湯山玲子 1960(昭和35)年・東京生まれ。
出版・広告ディレクター。(有)ホウ71代表取締役、日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。
編集を軸としたクリエイティブ・ディレクション、プロデュースを行うほか、自らが寿司を握るユニット「美人寿司」を主宰し、ベルリンはコムデギャルソンのゲリラショップのオープニングで寿司を握るなど日本全国と世界で活動中。
著作に文庫『女ひとり寿司』(幻冬社)、『クラブカルチャー!』(毎日新聞出版局)、新書『女装する女』(新潮社)。近著に『四十路越え』(ワニブックス)。プロデュースワークに『星空の庭園 プラネタリウムアフリカーナ』(2006夏 六本木ヒルズ展望台)、2009年まで通年の野宮真貴リサイタルなど。

ページの先頭へ