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男女公論

2010/11/11 UPDATE #004

坂本龍一×湯山玲子 男女公論

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第一章
「寿司を喰うってことは、中国の皇帝のやったことと同じ」

湯山:ミシュランをはじめ世界のグルメたちが「信じられないぐらいの美食が集まっている場所」とのお言葉をいただいている東京ですが、やっぱり寿司のレベルだけは中でも別格なので、のっけから「寿司」にしてみました。やっぱり、魚はね、本当に日本は美味しい。

坂本:去年の8月に、縁があって高知に行ったんだけど、そこで食べたカツオのタタキに度肝を抜かれましたね。中土佐の町長さんが「どうしてもカツオのタタキを食べていただきますから」ってすごく語るから、どんなもんだろうと思って食べたんだけど、もうね、これ以上のものはないって思いましたよ。有機農法のワラで炙って、粗塩だけで食べるんですよ。(※1)

湯山:ポン酢じゃないんですね。ウマそうだなあ!

坂本:ワラの微かなアロマっていうか、甘い匂いと、若干薫製されているくらいの感じと、その粗塩の甘さが絶妙に絡まって。だから、カツオのタタキの概念が全然変わっちゃって。とりあえず、何も付けずに食べる。こんな単純な料理ってないじゃない。切って、ちょっと炙って、 塩かけて食べるだけ。

湯山:軽く藁でいぶす、というのは、実は江戸前寿司の伝統的な仕事の仕方にもあるんですよね。一回、そういうマグロを出されて、「新機軸のアイディアですか?」といったら、たしなめられちゃった。カツオも春と秋で初ガツオと戻りカツオで味が違う。暖流と寒流がぶつかるところにちょうど国土があって、山から海の距離が近いし、とすると、とてつもなく魚の味が変化に富んで、どう考えても、寿司のために出来た国、としか思えないんですよ。

(※1)Ryuichi Sakamoto Playing The Piano 2009 高知公演の前夜「高知カツオ祭り」にて教授がカツオを炙っている。
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坂本:そうかあ。寿司の国なんだね(笑)。

湯山:北は利尻のウニ、大分豊後水道のサバ、下田の金目ダイなど、たとえばつい昨日の海の中で一番、盛りを迎えた旬としてのパワーがある魚が今ここで、自分の口に入るという凄さというかな。日本全国のあらゆる海から、そういう魚が集まってきて、それを「今ここで食べている」っていうダイナミックな贅沢さです。

坂本:中国の皇帝もそういうことやっていたよね。東西南北のあらゆるところから、いろんな名品を一カ所に集める。(※2)そう考えると、寿司を喰うってことは、皇帝のやったことと同じかも(笑)。

次章へ続く・・・

(※2)満漢全席のこと。中国全土から選りすぐった100種類を超える料理を、数日間かけて食したと伝えられる、贅の限りを尽くした宮廷料理。
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PROFILE

湯山玲子 1960(昭和35)年・東京生まれ。
出版・広告ディレクター。(有)ホウ71代表取締役、日本大学藝術学部文藝学科非常勤講師。
編集を軸としたクリエイティブ・ディレクション、プロデュースを行うほか、自らが寿司を握るユニット「美人寿司」を主宰し、ベルリンはコムデギャルソンのゲリラショップのオープニングで寿司を握るなど日本全国と世界で活動中。
著作に文庫『女ひとり寿司』(幻冬社)、『クラブカルチャー!』(毎日新聞出版局)、新書『女装する女』(新潮社)。近著に『四十路越え』(ワニブックス)。プロデュースワークに『星空の庭園 プラネタリウムアフリカーナ』(2006夏 六本木ヒルズ展望台)、2009年まで通年の野宮真貴リサイタルなど。

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