私が好きな坂本龍一10選
第2回
稲垣吾郎
俳優
94年の年末のピアノ・ソロのコンサートに行ったら、なぜかMCで“ようこそいらっしゃいました、稲垣吾郎です”とおっしゃったことがあって、たぶんギャグだと思うんですけど、お客さんも笑っていいのかわるいのかわからなくてシーンとしちゃって、ぼくもどう反応していいかわからないということもありました(笑)。最後にお会いしたのは番組の『BISTRO SMAP』というコーナーにゲストで出ていただいたとき。もう10年以上お会いしていないので、またぜひお会いしたいです。
1
Little Buddha (Main Theme)
教授の音楽にリアルタイムで触れたのがこのあたりからです。映画をSMAPのメンバーと一緒に有楽町の映画館マリオンに観に行きました。ちょうど映画や音楽に興味を持ち出した時代なので、この曲とかその前の『シェルタリング・スカイ』などは本当に印象深いんです。そして世界で活躍している日本の音楽家がいるってすごいな、と思ったこともよく憶えています。
WPCR-28628
Little Buddha
坂本龍一
1. Main Theme
2. Opening Titles
3. The first meeting
4. Raga Kirvani
5. Nepalese caravan
6. Victory
7. Fareway song
8. Red dust
9. River ashes
10. Exodus
11. Evan's funeral
12. The middle way
13. Raga Naiki Kanhra / The Trial
14. Enlightenment
15. The reincarnation
16. Gompa - Heart sutra
17. Acceptance - End credits
楽曲解説
キアヌ・リーヴス、クリス・アイザックらが出演した1993年のベルナルド・ベルトルッチ監督の映画『リトル・ブッダ』のサウンドトラックのメイン・テーマ。ベルトルッチ監督とは三作目であり、最後の仕事となった。サウンドトラック・アルバムは世界各国で発売されたがフォーライフから発売された日本盤にはブックレットに坂本龍一の談話が掲載されたほか、ボーナス・トラックとして93年12月のオーチャード・ホール公演で演奏された「エンド・テーマ」のライヴ・ヴァージョンが収録されている。
2
リイクニのテーマ
子供の頃に観て、すごく斬新なアニメだと思ったんです。音楽も印象に残っていたんですが、当時は教授がやったということは知りませんでした。後年、最初に教授のアルバムを買ったのは『OPERA』というベスト盤で、そこにこの“リイクニのテーマ“も収録されていたんです。最近、あらためてサントラのCDも買いました。今回、この曲を挙げる人はいないと思うんですが(笑)、ぼくは音楽も映画も大好きです。
MDCL-1247
サウンドトラック・アルバム『オネアミスの翼 ―王立宇宙軍―』
坂本龍一
1. メイン・テーマ
2. リイクニのテーマ
3. 国防総省
4. 喧騒
5. 無駄
6. 歌曲「アニャモ」
7. グノォム博士の葬式
8. 聖なるリイクニ
9. 遠雷
10. シロツグの決意
11. 最終段階
12. 戦争
13. 離床
14. OUT TO SPACE
15. F A D E
発売元(ミディ)
楽曲解説
1987年に公開されたアニメーション映画『オネアミスの翼 王立宇宙軍』(山賀博之監督)のために作られた楽曲。全編の音楽を坂本龍一がプロデュースし、本曲のほかいくつかの曲を書いている。リイクニは映画のヒロインの名前でそのテーマとなるが、このピアノ主体の楽曲は映画では使用されずにサウンドトラック・アルバム『オネアミスの翼 王立宇宙軍』(87)が初出となった。映画公開前に発売されたミニ・アルバム『オネアミスの翼 イメージ・スケッチ』には本曲のデモ・ヴァージョンの「PROTOTYPE B」(86)が収録されている。
3
君と僕と彼女のこと
94年ぐらいに縁があって初めて坂本さんにお会いして、雑誌で対談したり一緒にお食事したり。スペインのフェデリコ・モンポウという作曲家を教えてもらったりもしました。だからやはりその頃の教授の曲にはとくに思い入れがあります。知り合ってすぐにレコーディング中の教授を訪ねたんですけど、そのときお茶のCM曲を作っていて、それがボサノヴァ風のアレンジですごく印象的でした。そうしたらアルバム『sweet revenge』にもボサノヴァ・アレンジの曲があって、どれもすごく好きです。とくにアルバム最後の曲の“君と僕と彼女のこと”。高野寛さんのヴォーカルも味があって、自分もこの曲を歌ってみたいなって思わせてくれた作品です。
FLCG-3128
sweet revenge
坂本龍一
1. Tokyo Story
2. Moving On
3. 二人の果て
4. Regret
5. Pounding at My Heart
6. Love and Hate
7. Sweet Revenge
8. 7 Seconds
9. Anna
10. Same Dream, Same Destination
11. Psychedelic Afternoon
12. Interruptions
13. 君と僕と彼女のこと
楽曲解説
1994年のアルバム『sweet revenge』に収録。作詞は大貫妙子で、坂本龍一と高野寛のデュエット曲となっている。同年のコンサート・ツアーには高野寛もギタリストとして参加し、坂本龍一プロデュースの高野寛のシングル曲「夢の中で会えるでしょう」とともにこの曲もステージで披露され、スタジオ・ヴァージョンと同じくふたりでのデュエットとなった。『sweet revenge』の海外盤にはヴィヴィアン・ゴールドマンが英詞をつけ、「Water’s Edge」に改題。アンディ・ケインと坂本龍一のデュエット曲となった。
4
energy flow
当時、癒し系と呼ばれましたけど、全体的にどこかさみしさや退廃的なところも感じるんですよね。ぼくはそういう要素がある音楽が好きなので、だからモンポウも教授に教えてもらってすぐに好きになったんです。
WPC6-10022
ウラBTTB
坂本龍一
1. energy flow
2. put your hands up (piano version)
3. 鉄道員 (piano version)
楽曲解説
当初は1999年に三共製薬の「リゲインEB錠」のCMのために作られた楽曲でタイトルもなく、CMの尺である30秒のみの作品だった。しかし坂本龍一本人が出演したCMが話題になり、急遽発売されることに。曲を長尺にし、タイトルもつけてレコーディングした本曲は3曲入りEP『ウラBTTB』のリード曲となる。このEPはインストゥルメンタル作品では初のオリコン・チャートの1位となる大ヒットを記録した。坂本龍一本人は5分ほどで作ったこの曲がなぜ大ヒットになったのかわからないとたびたび述懐している。CMに使われたオリジナル・バージョンはコンピレーション・アルバム『CM/TV』(02) に、『BTTB 20th Anniversary Edition』(18) に『ウラBTTB』ヴァージョンが収録されている。
5
The Other Side of Love
この曲はけっこう衝撃的で、曲もすばらしいし歌詞もいい。当時10代の女の子である美雨ちゃんにこの歌を歌わせるというのもすごい。いまでもイントロが流れるだけで引き込まれてしまいます。ちょうどこの曲が出た頃、ぼくは初めて本格的な舞台に主演したんです。つかこうへいさんの『広島に原爆を落とす』というお芝居で、自分の中で大きな出来事でしたが、この舞台に出ている間、この“The Other Side of Love”がいつも頭の中で鳴っていたんです。お芝居の内容とはまったく関係ないんですけど、歌詞の一節がぼくが演じる主人公の心情に被っているように当時23歳のぼくには思えたんですね。だからその時期の自分の裏テーマ・ソングみたいなところがあって思い出深いんです。そのお芝居にも教授は来てくれました。リハーサルをしていたらホールの入り口が突然開いて、教授がステージのほうに歩いてくるんです。逆光に包まれて、なんだかすごくカッコよかったのを憶えています。
FLDG-1007
The Other Side of Love
Ryuichi Sakamoto featuring Sister M
1. The Other Side Of Love
2. The Other Side Of Love -acoustic version-
3. The Other Side Of Love -instrumental-
楽曲解説
1997年に“Ryuichi Sakamoto featuring Sister M”名義で発表された作品。テレビ・ドラマ『ストーカー 逃げきれぬ愛』の主題歌で、Sister Mは当時正体が明かされなかったが、後に娘の坂本美雨だと公開されて話題となった。坂本龍一は、このプロジェクトで女性シンガーを探していた中、美雨とカラオケに同席したことのあるマネージャーの進言により抜擢した。坂本美雨はこのレコーディングがきっかけでシンガー、ミュージシャン志望となり、1998年に坂本龍一プロデュースのミニ・アルバム『aquascape』でソロ・デビューした。この「The Other Side of Love」はシングルとして発売されたほか、坂本龍一、佐橋佳幸の共同名義で発売された『ストーカー 逃げきれぬ愛』サントラ盤(1997)に複数のインスト盤とともに収録されている。
6
ZERO LANDMINE
これも印象が強いですね。筑紫哲也さんの『NEWS 23』の特番でたしか生演奏もしたんですよね。あれはカッコよかった〜。そうか、テレビの生放送でこんなこともできるんだってびっくりしました。こうやって世界中の人と演奏で繋がれる音楽の力ってすごいな、と。いまでこそリモートとか普通にやられていますけど、当時、中東とかアフリカを結んで一緒にやったんですよね。とても長い曲ですけど、ぜひ聴いてほしいと思います。
WPC6-10126
ZERO LANDMINE
N.M.L.
1. ZERO LANDMINE
2. ZERO LANDMINE -Piano+Vocal version-
3. ZERO LANDMINE -Piano+Cello version-
4. ZERO LANDMINE -Short version-
5. ZERO LANDMINE -Piano version-
6. ZERO LANDMINE -THE TRACK-
楽曲解説
2001年にTBS開設50周年特別企画『地雷ZERO21世紀最初の祈り』のために作られた楽曲で、アルバム『ZERO LANDMINE』として発表された。世界中の埋められたままの地雷の撤去の活動に対するチャリティ企画で、この作品のCD、アナログ盤の売り上げはすべて撤去活動をおこなっているNGOに寄付。国内外の30人以上のアーティスト、著名人が歌や演奏、語りで参加し、メインの楽曲は18分を超える長さになっている。2001年4月30日には『NEWS 23』の特別番組内で各国を結んでのライヴ演奏も行われ、ダイアナ元英国皇太子妃もナレーションで登場した。アルバムにはピアノのみのインストゥルメンタル版などメイン以外にも5つのヴァージョンが収録されている。
7
andata
アルバム『async』はけっこう難解な作品だと思うんですけど、ぼくは好きなんです。とくに一曲目のこの“andata”はとてもメロディアスで美しい。この美しい曲から始まってアルバムはとても複雑でものすごい世界に入っていきますよね。そういえばアルバム発売当時にワタリウム美術館でやっていた『async』の展覧会に行って、映像と一緒になったアルバムの曲を鑑賞できる素敵な空間だったことも憶えています。いまでも、よく夜に散歩するときに『async』を聴きながら歩いています。
RZCM-86314
async
坂本龍一
1. andata
2. disintegration
3. solari
4. ZURE
5. walker
6. stakra
7. ubi
8. fullmoon
9. async
10. tri
11. Life, Life
12. honj
13. ff
14. garden
楽曲解説
坂本龍一の最新オリジナル・アルバム『async』(17) の冒頭曲。もともとは2009年にオーストラリアのユニット“ソロ・アンダータ”のシングル「Look For Me Here」のリミックスを依頼された際、坂本龍一が付け加えたコラールのメロディを発展させた曲。このリミックス・ヴァージョンの「Chorale | Look For Me Here」は坂本龍一のコンピレーション・アルバム『Year Book 2005-2014』(15) に収録されている。またリミックス・アルバム『ASYNC-REMOEL』にはワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、エレクトリック・ユースによるリミックスが収録されているほか、ライヴ・ヴァージョンをアルヴァ・ノトらとの共演ライヴ盤『Glenn Gould Gathering』(18) で聴くことができる。
8
parolibre(ピアノ・ソロ・ヴァージョン)
これもすごく好きな曲でメロディがとにかくいい。自分の中では“andata”と共通しているような感覚があります。アルバム『未来派野郎』に入っているオリジナル・ヴァージョンも好きですが、ピアノ・ソロで演奏されると美しいメロディがより際立って、さらに感動する。ぼくがピアノの音が好きということもあるんでしょうけど。
RZCM-46381
RYUICHI SAKAMOTO PLAYING THE PIANO 2009 JAPAN SELF SELECTED
坂本龍一
1. hibari
2. composition 0919
3. put your hands up
4. mizu no naka no bagatelle
5. tango
6. amore
7. ambiguous lucidity
8. a flower is not a flower
9. before long
10. energy flow
11. mc_08 (tong poo)
12. merry christmas mr. lawrence
13. the last emperor
14. rain
15. the sheltering sky
16. sweet revenge
17. high heels
18. bolerish
19. silk endroll
20. self portrait
21. bibo no aozora
22. perspective
23. behind the mask
24. tibetan dance
25. 1919
26. thousand knives
27. parolibre
楽曲解説
オリジナル・ヴァージョンは1986年発表のアルバム『未来派野郎』に収録。以降のソロ・ライヴで何度も取り上げられる人気曲で、近年では「aqua」(アルバム『BTTB』収録) とともにコンサートの最後の演奏曲に選ばれることも多い。ここで挙げられているピアノ・ソロ・ヴァージョンは坂本龍一のいくつかのライヴ・アルバムや映像作品に収録されている。代表的なものでは『RYUICHI SAKAMOTO PLAYING THE PIANO 2009 JAPAN SELF SELECTED』(2009)、『ryuichi sakamoto playing the piano usa 2010 / korea 2011 -USTREAM viewers selection-』(2011) などがある。
9
Minamata Piano Theme
最近ではこの映画の音楽がすばらしかった。映画自体もよかったんですけど、音楽も好きです。昔の『ラストエンペラー』とか『シェルタリング・スカイ』の主張の強い音楽とちがって、ここでの音楽は映画に集中しているときには音楽の存在を感じさせないのだけど、でも観終わったあとにいい音楽が鳴っていたなと、サントラを何度も聞き返したくなる。ああ、あの場面でこの音楽が鳴っていたな、よかったなって。自己主張がなくて、そのぶん映画に寄り添っている感じがあるんです。何度も聴き直したいです。
RZCM-77397
オリジナル・サウンドトラック『MINAMATA―ミナマター』
坂本龍一
1. Minamata Piano Theme
2. Into Japan
3. Landscape
4. The Boy
5. Chisso Co.
6. Boy and Camera
7. Hidden Data
8. Blow Up
9. Rally and Persuasion
10. Meeting
11. Offer
12. Commitment
13. Fire
14. Sharing
15. Rising
16. Chisso Gate
17. Arson Man
18. Suicide
19. Mother and Child
20. Coda
21. Icon
22. One Single Voice / Katherine Jenkins
23. Minamata Piano Theme(Live at Kumamoto-Jo Hall, Japan 2019)※Japan exclusive
楽曲解説
2021年に公開されたジョニー・デップ主演の映画『MINAMATA』(アンドリュー・レヴィタス監督) のテーマ曲。同名サウンドトラック・アルバム (21) の冒頭に収録されている。世界各国でサウンドトラック・アルバムは発売されているが、日本盤CDのみボーナス・トラックとして「Minamata Piano Theme (Live at Kumamoto-Jo Hall, Japan 2019)」が追加収録されている。このライヴ・ヴァージョンは2019年12月25日に熊本地震の被害からの復興を支援するコンサートに出演した際のピアノ演奏で、世界初演となった。また、このテーマ曲の1曲入りCDが全国の映画館で販売された同映画の限定版パンフレットに付属して話題となった。
10
ゴリラがバナナをくれる日
好きでよく聴いている曲にも理由があるものとないものがあって、この曲は理由なく好きです。やっぱりピアノの音が好きだからかな。ところで、坂本さんの音楽を軽々しく語っちゃいけないって雰囲気あると思うんですよ(笑)。村上春樹さんのことを語るとハルキストが怖いみたいな感じで。ぼくは音楽的なことはわからないので10曲挙げるとなったときにけっこう気後れしたんですけど、こうして話していると、ぼくはやっぱり坂本さんの音楽が大好きなんだなってあらためてわかりました。
MDCL-1261
OPERA
坂本龍一
1. Merry Christmas Mr. Lawrence
2. Ride Ride Ride
3. ゴリラがバナナをくれる日
4. Dear Liz
5. Before Long
6. Grasshoppers
7. Paradise Lost
8. Parolibre
9. リイクニのテーマ
10. The Seed and the Sower
11. ワタスゲの原
12. The Last Emperor Theme
楽曲解説
1986年のツアーのライヴ・アルバム『Media Bahn Live』(86) が初出となった曲。もともとは1979年に石岡瑛子がディレクションしたPARCOのCM「フェイ・ダナウェイ“アニマル”」篇のためにつくられた作品を、1986年に改題したもの。以降、いくつものコンサートで演奏されているほか、トリオ編成でレコーディングしたアルバム『1996』(96)にも収録されている。コメント中にある稲垣吾郎氏が初めて買った坂本龍一のCDであるベスト盤『OPERA』(93) には、『Media Bahn Live』からのライヴ・テイクが収録されている。
稲垣吾郎
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