- ―そんな感じでいいんですか?坂本さんも曲の解説を。
- 坂本:僕はいつでもできるから。いまやっちゃう?解説もへったくれも……。
好きなドビュッシーの曲ですね、「ロマンス」。なんてことない曲ですね。それから、これは、ドビュッシーの「子どもの領分」っていう有名な組曲の一曲目。ここで僕が選んだのは、ドビュッシー自身が弾いているヤツ。ロールピアノっていって、紙にパンチカードみたいに穴を空けていって、記憶するピアノができた。それで、ドビュッシーが弾いたのが記憶されていて、紙のロールがいまだに残っていて、それを再現したやつ。それはドビュッシーとかラベルもあるし、バルトークもあるし、今で言うMIDIみたいなもの。演奏情報だけ紙に打ち込む。かなり正確だと思いますよ。っていうのは、ラベルが弾いてるのも好きなんですけど、全然違うんですよ、弾き方が。ドビュッシーはラベルより約10歳くらい年上なんですけど、その10年の差で、演奏スタイルも音楽のスタイルも、ものすごく変わっていて。やっぱりドビュッシーは19世紀の流れの人で、ラベルになると、20世紀のメカニカルなテクノっぽい弾き方に変わっちゃうんですよ。それがすごく面白い。今、こんな弾き方ができるって人はいないってくらい、自由奔放に弾くんですよ、ドビュッシーは。それがすごく面白い。
このブラームスの間奏曲は、ブラームスの中で一番僕が好きな曲です。で、たまたまた知ったんだけど、アントニオ・カルロス・ジョビンもこの曲が大好きだったそうです。ジョビンの孫のダニエルと友達になって、「おじいちゃんこの曲が好きでさ」って教えてくれた。
それから、ピエール・ブーレーズの一番有名なやつで、古典ですね、現代音楽の。ブーレーズ自身が指揮してるんですけど、すごく難しい曲だけど……。
次が、玲子が言ってたスティーブ・ライヒ。これは、パット・メセニーがギター弾いてて、演奏はあまり好きじゃないんだけど、曲はいい曲です。弾き方が好きじゃない。ペラペラしていて。
で、ミニマルつながりで、ピグミー族。これは、録音はヨーロッパでやってます。この「アフリカン・リズム」っていうアルバムがものすごくいいんです。ピグミー族の音楽と現代のミニマル音楽を交互に配置した、そういうイベントをやったんです。そのライブ。企画がいいですね。実際にピグミー族を連れてきてやったみたい。すばらしい。
次も、ピグミーつながりで。いろんな種族がいるので、“Aka Pygmies”とか“Mbuti Pygmies”同じピグミーでもちょっと感じが違うんです。 次が、ミニマルっぽいつながりでアラーム・ウィル・サウンドっていうバンド名なんですけど、このアルバムはエイフェックス・トゥインの曲を、全部生楽器でやってるんです。室内楽で。主にエイフェックス・トゥインの曲をクラシカルなスタイルでやっている若いニューヨークのバンドなんです。かなりおもしろい。今後の注目株。
ミニマルつながりで、池田亮司(Ryoji Ikeda)。ここから、もうガクッと変わって、いきなりタンゴです。20年代の。すごくいいです。古いタンゴの録音がいいんです、ノイズが。古い録音、僕大好きで。ノイズと中に音がある、ガーツて。それで、ノイズの向こうで聞こえてくるのがタンゴだから、情熱的ですごいエレクトロニカな感じなんだよね。
で、古い懐かしい感じつながりで、ヴァン・ダイク。中でも一番好きな曲で、「ビー・ケアフル」。鬼才、天才、アレンジがちょっと常人には考え付かないような、グオーグシャグシャグシャって。すごい変人。アメリカではほとんど知られてなくて、日本で人気がある。ワーナーから出してるんだけどね。たとえば、リトル・フィートのプロデュースとかしてる人、ライ・クーダーのプロデュースをした人っていえばわかるけど、ほぼ知ってる人はいない。よっぽどマニアックな人だろうね。
で、つながりないけど、ミーターズこれも知る人ぞ知るソウルの原型みたいな。教会から派生した世俗的な黒人音楽と今っぽいソウルになってくる、その中間あたりの。
で、ブラックミュージックつながりで、ニーナ・シモン。とくにファンじゃないんだけど、この曲はとくに好きで、すごくいい曲。多分、奴隷時代の曲だと思うんだけど、タイトルもそういう感じ。「自由であることを感じられたらどんなにいいのに」って。自由を感じたことがないって歌だから、「自由ってどんなのかしら?」って。でも、すごい陽気なゴスペルなんです。 - 令子:悲しいよね。次のDNAって何だっけ?
- 坂本:DNAはアート・リンゼイのバンド。僕が一番好きなロックバンドです。あえてロックというならば。今だに、DNAのファンです。アートもいいけど、ドラムのイクエ・モリさんっていう日本人の女性。イクエさんは知り合いだけど、ニューヨークに住んでて、今はラップ・トップでノイズミュージックやってる。結構いいですよ。たまにローマとかで会うけど、しっかりノイズを感じる音楽です。
で、ガラっと変わって、ジョビンになっちゃって。ジョビンの中でも好きなアルバムの「ストーン・フラワー」。 - 令子:これ一緒にやってた人じゃなかった?
- 坂本:死んじゃったんだけど、ジョビンさんのバンドにいた仲間たちと僕らがレコードしたの。超尊敬してる。ビル・エバンスのタイム・リメンバード。ビル・エバンスとジョビンも結構感覚やハーモニーが似てるんですよ。両方とも源流はドビュッシーですから。
- 令子:音楽の講義聴いてるみたい。
- 坂本:エバンスの特に好きな曲で、ものすごく瞑想的な曲。ジャズって難しいけど、それが難しくなくて、メローでキレイな曲。
で、そのまま続いて、17番はラベルの曲。同じ頃の人がつくった曲みたいに思えるほど、感覚的に似ています。で、これを弾いている、ヴラド・ペルルミュテールはポーランド人なんだけど、ラベルの一番弟子で、自分の音楽をクローンみたいに写して完璧に弾かせたんです。数年前に亡くなった。ラベルはこういうふうに表したかったっていうのを完璧に再現した人。小学生の頃に家に何枚かレコードがあって、この人が弾いてるショパンのレコードがあって、それが好きでよく聴いてた。 - 令子:ステキだね。
- 坂本:で、いきなりジョン・ケージに。ジョン・ケージも僕のルーツの一つになっていて、ジョン・ケージから破壊系なナム・ジュン・パイクになっていて。これは弦楽四重奏曲で、すっごく静か幻想的で、破壊系じゃない。
- 令子:眠れる?
- 坂本:絶対寝れる。静かな海みないな。で、最後にあんまり結びつかないんだけど、ジョン・ケイジから、シャーマンの呪音です。
- 令子:族好き?
- 坂本:好きですね。モンゴロイド系のシベリアのヤクート族っていう。普通、僕らが思っているロシア人は白人でヨーロッパや黒海のあたりから攻めてきたって思ってるけど、東ロシアはもともとはモンゴロイドが住んでいたの。500万くらいのものすごい数がいたんだけど、ロシア人に皆殺しにされて、2万人くらいまでに減っちゃったんです。そこで、生き残っているモンゴロイドの人たちがヤクート族。シャーマニズムっていうのは、シベリアのモンゴロイドたちの中で、知った宗教なんです。シャーマニズムっていのは、恐山のイタコみたいに、憑依してお告げを告げるみたいな。シャーマンが降りてくるんです。そんな感じですかね。
- 令子:へえ〜。
- ―令子さんは、どういう人にどういうシチュエーションで聴いて欲しいですか?
- 令子:それが好きで、理解できる人に聴いてもらえれば。シチュエーションは、一人で、たとえばリラックスしたいときとか、電車乗っているときとか、飛行機乗っているときとか。一人世界系の曲が多いから。聴いてはまって欲しい。お酒が飲めない頃に聴いていたような曲なので、気持ちの中のそういうグッとくる。ませた子ども?ですね。
- ―この20年くらいの曲がないですよね。
- 令子:そうですね……
インタビュアー:菅付雅信
※エントリーは締め切りました。
ジャンルはさまざまながらも、どこか普遍的なパワーが感じられる楽曲たち。
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Romance ("Silence ineffable", Bourget,1884) /
Claude Debussy -
Doctor Gradus ad Parnassum /
Claude Debussy -
3 Intermezzi Op.117 No.2
in b flat Minor /
Valery Afanassiev -
Electric Counterpoint - Fast (movement 1) /
Steve Reich -
Yangissa /
Aka Pygmies -
Musical Sticks /
Mbuti Pygmies -
Jynweythek Ylow /
Alarm Will Sound -
Data.Vertex /
Ryoji Ikeda -
Copacabana /
DE Caro, Julio -
Look-Ka Py Py /
The Meters -
I Wish I Knew How It Would Feel To Be Free /
Nina Simone -
Amparo /
Antonio Carlos Jobim -
Menuet Sur Le Nom De Haydn /
Vlado Perlemuter -
string quartet in four parts - i. quietly flowing along /
John Cage