東日本大震災で被災した学校の、楽器備品の点検、修理等を目的としたプロジェクト「こどもの音楽再生基金 -School Music Revival」。坂本龍一も発起人のひとりとして名を連ねて、「音楽と楽器の力で、こども達に笑顔を」をキャッチフレーズに活動を展開しています。
この基金への寄付を目的とした、坂本龍一のピアノ・ソロ・コンサートが2011年12月25~28日に開催されました。本活動に賛同いただいてるアーティストも日替わりゲストで登場。会場を盛り上げました。
なお、チャリティ公演の取り組み方として、コンサートの必要最低限の経費をまかなう為のチケット代金と、純粋な寄付金として扱われる金額の合計をお客様にお支払いいただく方法を選択しました。坂本龍一も含め出演者は全員無償で出演しております。
日替わりゲストを迎えて行われた本コンサートを写真レポートでお届けします! ゲストの写真をクリックして当日の雰囲気をお楽しみください。
12/25(日)17:00 GUEST:大貫妙子
- 01.improvisation
- 02.fukushima01
- 03.20msec.
- 04.solitude
- 05.castalia
- 06.0322
- 07.bibo no aozora
- 08.put your hands up
- 09.still life
- 10.energy flow
- 11.tango
- 12.akatonbo “赤とんぼ”
(guest -大貫妙子-) - 13.shikisai toshi “色彩都市”
(guest -大貫妙子-) - 14.a life (guest -大貫妙子-)
- 15.merry christmas mr.lawrence
- 16.the last emperor
- 17.ichimei
~アンコール~ - 18.totsuzen no okurimono “突然の贈り物”
(guest -大貫妙子-) - 19.mizu no naka no bagatelle
12/26(月) 19:00 GUEST:大友良英
- 01.20msec.
- 02.nostalgia
- 03.musica callade1
- 04.still life
- 05.bibo no aozora
- 06.0319
- 07.solitude
- 08.castalia
- 09.put your hands
- 10.improvisation(guest -大友良英-)
- 11.fukushima #1(guest -大友良英-)
- 12.opus
- 13.merry christmas mr.lawrence
- 14.ichimei-end roll-
- 15.improvisation(guest -大友良英-)
- 16.aqua
~アンコール~ - 17.mizu no naka no bagatelle
12/27(火) 17:00 GUEST:細野晴臣
- 01.improvisation
- 02.fukushima#1
- 03.20msec.
- 04.0330 E maj
- 05.bibo no aozora
- 06.castalia
- 07.solitude
- 08.prelude
- 09.radioactivity(guest -細野晴臣)
- 10.the song is ended(guest -細野晴臣)
- 11.smile(guest -細野晴臣)
- 12.happyend
- 13.merry christmas mr.lawrence
~アンコール~ - 14.ichimei
- 15.koi ha momoiro"恋は桃色"
(guest -細野晴臣) - 16.self portrait
- 17.parolibre
12/28(水) 19:00 GUEST:東野珠実
- 01.20msec.
- 02.0404 F min
- 03.Ich ruf zu dir Herr Jesu Christ BMV 639
- 04.bibo no aozora
- 05.castalia
- 06.still life
- 07.koko
- 08.prelude
- 09.banshikichou-盤渉調-
(guest solo -東野珠実) - 10.fukushima #1(guest -東野珠実)
- 11.kizuna(guest -東野珠実)
- 12.soujyou-双調-(guest -東野珠実)
- 13.energy flow
- 14.merry christmas mr.lawrence
- 15.the last emperor
~アンコール~ - 16.tama(guest -東野珠実)
- 17.ichimei
- 18.tibetan dance
- 19.aqua
2011年のクリスマスから4日間にわたって行われた「playing the piano 2011~こどもの 音楽再生基金のために~」。東日本大震災で被災した楽器の点検、修理などを目的としたプロジェクト「こどもの音楽再生基金 ~School Music Revival」への募金を目的とした坂本龍一のピアノ・ソロ・コンサートです。
会場となったヤマハホールはアコースティック楽器に最適なコンサートホール。天井まで届く木のアーチが美しく、人の話し声すら心なしか音が丸くなって返ってくるような気がします。そこへ現れた白いローブ姿の女性8名。なんとこの公演は聖歌隊・CANTUS(カントゥス)の歌声をいわば生BGMにして教授の登場を待つという趣向なのでした。
グレゴリオ聖歌ならではの淡く重なりあうハーモニーが会場中で柔らかく響き、全体を包んでいきます。暖かく幸せな時間。天使の歌声とはこういうものを指すのでしょう。
しばらくして天使たちと引き換えに黒いスーツに身を包んだ教授が現れると、その場の空気はしんと冷たくなったように感じられました。 微かな電子音から始まる「20msec.」が薄い暗闇の中から立ち上がると、続いてひんやりしたピアノの音色が印象的な「nostalgia」へ。どこかいつもより静謐な印象の「bibo no aozora」や「solitude」、そこからほっと一息つくかのように演奏された「put your hands」まで実に9曲。一気に駆け抜けていった教授をただ息を飲んで見守るばかりだったお客様からも、ふうっと安堵のため息がこぼれます。
その様子を感じてか「昨日はおしゃべりがすぎちゃって、せっかくの冷たい雰囲気を壊しちゃったから…でも今日は演奏しすぎちゃったね」と笑う教授。
津波にやられて使えなくなってしまった楽器たちに胸を痛めた時のことを思い出していたのかもしれません。あるいはアコースティックな歌と楽器を携えてくる他3日間のゲストとは趣が異なり、この日は大友良英さんとの前衛音楽セッションが予定されていることもあって、静かに気合を入れていたのかも…。
ここで改めてこのコンサートの趣旨をお客様に説明し、ゲストをステージに招き入れます。
拍手に包まれながらゆっくりとステージの袖から現れた大友さん。教授との初めての出会いは2010年の年末だったとは思えないほど2011年は多くの活動を共にしてきただけにトークも止まりません。
中でも、夏に行われた福島でのライブ「プロジェクトFUKUSHIMA!」での大友さんたちとの共演では教授が若い頃の前衛精神を刺激されて熱演し、借り物のピアノに傷をつけてしまったというエピソードを披露すると会場も大笑い。でも今日は自分のピアノだから思い切りやりますよ、と教授が宣言して立ち上がると、おもむろにピアノの内部に張られている弦に手を伸ばして内部奏法が始まります。ピアノのあちこちを打楽器のように叩いたり、弦を引っ掻いて高い金属音を出したり。その即興演奏を受けて立った大友さんはエレキギターをヴァイオリンの弓で弾いて音を歪ませたり、ポケットに入っていたコインをステージ上に投げて新たな音を創り上げていきます。
異種格闘技戦のような先が読めないふたりの一挙一動に注目が集まる中、教授のハードディスクから「fukushima #01」の重厚なサウンドが流れ出したのを合図に、改めてふたりによる厳かな演奏が行われ激動の2011年を想い返すのでした。
アンコールは教授自身がお気に入りだという映画『一命』サウンドトラックから「ichimei-end roll-」を演奏し、再び大友良英さんを迎えます。「何も打ち合わせしていないから…どうしようか」と雑談しながら笑っていた教授ですが、ふとナム・ジュン・パイクがこんな事やってたよね、とMC用のマイクをピアノの内部に押し付けると、ノイジーな中に浮遊感のある不思議な音が! きっとこの瞬間、客席の誰もがスタジオの中で新しい曲を創り上げるところを見ているような、どこか神聖で、ワクワクする一瞬をステージのふたりと共有しているような感覚に陥いったことでしょう。ステージ上のふたりも目を合わせてにやっと笑ったように感じました。そこから始まった即興演奏は先ほどの演奏に輪をかけてスピード感を増したバトルとなり、どこまでも続いていくように思われました。
アンコールが終わってもまだ興奮冷めやらない客席を見て、教授は「皆さん、なかなかお帰りになりませんねえ」と苦笑しながら再度ステージへ。しっとりと「mizu no naka no bagatelle」で公演を締めくくったのでした。
取材・文/伴 牧子 撮影/小浪次郎
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