細野:伊藤ゴローくんとはついこないだ初めて会ったばかりだよね。
伊藤:はい、(一緒に)ライヴをやらせていただいて。
細野:先月、青山のCayで恒例のデイジーホリデーの集いがあって。最近僕はやっとボサノヴァ聴くようになってて。ジョアン・ジルベルトの「O Sapo(オ・サポ)」っていう曲できるかな?って密かに思ってたのね。そしたら高田漣くんが「ゴローくんはすごいよ」と。で、先月やったらすごく気持ちよかったな。
伊藤:(気持ち)よかったですね。聴いてた人も「すごいイイ」と言ってくれて。
細野:ちなみに、ゴローくんはいつからボサノヴァやってるの?
伊藤:意外に浅くて、20代後半からです。中学生ぐらいから、聴くにはずっと聴いていたんですよ。父親がジョアン(・ジルベルト)のレコードとか結構持ってて、ひとりブームにしてました。中学の卒業アルバムでひとりひとりキャッチコピーを書いたんですけど、「僕には“ボサノヴァ”っていうキャッチコピーを付けてくれ」と言ったほど。でも、自分でやろうと思ったのは30直前ぐらいで。
細野:僕はね、ずっとボサノヴァ避けてきたの。なぜかというと、スタン・ゲッツがあまりにもボサノヴァ広めすぎちゃって、近づきがたいというか。ダバダバダのイメージが強くて、自分では絶対やらないと思ってた。
伊藤:確かにスタン・ゲッツは音でかいし、わりと聴きにくいアルバムですもんね。
細野:でも、数年前に突然ルイス・ボンファの夢を見てね。なぜか馬に乗ってて、一緒にいた“相棒”が「ルイス・ボンファはいいですよ」って僕に言うわけよ。その夢をずっと覚えてて。一昨年の暮れか去年だったか覚えてないけど、彼のCDを買って聴いてみたら、ものすごく良くて。そしたら、久しぶりに会った友だちからも「ボサノヴァやったら?」と言われたり、『ブラインドネス』っていう映画の、すごくいいシーンでボサノヴァの曲が使われてて、こんな素晴らしい音楽があるのかと思ってクレジット見たら、ルイス・ボンファの「サンボレロ」って出てきて二重にびっくりしたり。なんだこの攻撃は!?ってぐらい、どんどんボサノヴァに巻き込まれていっちゃった(笑)。
伊藤:ルイス・ボンファのお告げだったんですかね。
細野:そうかもしれないね。
伊藤:その馬に乗ってたときの“相棒”が誰だったかも気になりますね。
細野:ジルベルトかな?
伊藤:かもしれない(笑)。ボンファとジョアンは昔から親交があって。ジョアン(の作品)に「ボンファに捧ぐ」っていうインストの曲があるぐらい、お互い尊敬し合ってますからね。
細野:うん。それからボンファを聴きまくって。もちろん敬意を表してジルベルトも聴いて。今でもジョアン・ジルベルトとルイス・ボンファは特別だなって思って聴いてるんだけど。
伊藤:もう、原点ですよね。
「デイジーワールドの集い」での対談風景
細野:今回出る『Bossa Nova Songbook 2』は、音がもうブラジルだよね。東京の音じゃない。
伊藤:僕も改めて聴いて、そう思いました。音像というか。日本ではないですよね。
細野:今回はじめてブラジルでレコーディングしたんだよね? やっぱり空気が違うよね。
伊藤:違うんでしょうね。演奏も、ドラム、ベース、ピアノはブラジル人にやってもらって。
細野:その前からもブラジルには通ってたの?
伊藤:いや、ブラジル行くのは今回が2回目だったんですよ。小野リサさんのアレンジとかをやってるマリオ・アジネーっていうブラジル人アーティストがいるんですけど、彼の音が好きで、マリオ・アジネー周りのミュージシャンとレコーディングしたいな、と思って。スタジオもマリオ・アジネーと同じところで、だだっ広い1ブースにパーテーションを立ててみたいな、古いスタイルのレコーディングでやりました。秋にもオリジナルアルバムを出すので、2枚分、全部で24曲録って。
細野:何日間でやったの?
伊藤:ベーシックは5日間ですかね。そのあと、24ギターダビング、20ボーカル。ミックスもマスタリングも、全部リオでやってきちゃいました(笑)。
細野:すごいな! だからこういう音になってんだ。ピアノに坂本龍一くんも入ってるけど、それもブラジルで?
伊藤:これはブラジルへ行く前に日本で録って、それをリオに持っていってドラムとベース入れてレコーディングしたんです。並べて聴くと、教授のピアノはすごいですね。とてもボサノヴァ。ブラジル人の演奏よりもジョビンイズムというか。
細野:へー、実は根っこがボサノヴァなのかも(笑)。
伊藤:そうなのかもしれないですね。
オープニング、映画評論家の故・淀川長治さんばりのゲジゲジ眉毛を付けて登場した細野さん。
細野:最近のブラジルの音楽シーンってどんな感じなの? 活発なの?
伊藤:ひところ若者たちはボサノヴァなんて見向きもしないというか、昔の古い音楽だ、みたいな感じだったらしいんですけど。最近はボサノヴァをカッコイイものとして聴いてて。“オールドスクール”的に、というか。ボサノヴァ以外にも、サンバとか古いショーロとかを聴くのがブームになってて、自分たちでショーロをやったりするのもすごい盛んなんですよね。
細野:それはいいことだなぁ。
伊藤:おじいちゃんと若者が家の中で一緒にショーロをやったり。そういうのステキですよね、世代を超えて一緒に音楽をやるっていうのは。
細野:それが音楽のいいとこだよね。ヨーロッパを旅してても、おじいちゃんとおばあちゃんがダンスしてたりするような光景をよく見るからね。羨ましいなぁと思う。
伊藤:そうですね。ブラジルではボサノヴァが生まれた頃も、ボサノヴァ以前の世代の人と一緒にアルバムを作ってたりするんですよ。ドリヴァル・カイミっていうボサノヴァ以前の人が、(アントニオ・カルロス・)ジョビンと組んで、朗々と海の歌を歌ってたり。
細野:みんなやっぱり敬意をはらってるわけだね。
伊藤:そうですね。
細野:そういう関係は好きだなぁ。まあ、僕ももうすぐおじいちゃんなんでね(笑)。若い人に教えたり、そういうことをこれからやっていけたらいいなぁと思う。
伊藤:もう、それは是非やってほしいですね。
photo/鈴木信吾
5/26「デイジーワールドの集い」(EATS and MEETS Cay)
6/14放送「DAISY HOLIDAY! 」(76.1 InterFM 毎週日曜日 25:30~26:00)より
http://www.interfm.co.jp/n03_pro/daisy.cgi
naomi & goro
『Bossa Nova Songbook 2』
ボサノヴァファンに、そしてすべての音楽ファン必携の、ボサノヴァ・カバー・アルバム第2弾。
naomi&goroにとって初のリオデジャネイロ録音が実現した本作。坂本龍一とのユニットでも知られるジャキス・モレレンバウムも1曲ゲスト参加するなど、全編にわたり南米のゆったりとした空気が流れた作品に仕上がっている。
naomi & goro
『Bossa Nova Songbook 1』
シリーズ第一作目も注目
『Bossa Nova Songbook 2』
リリース記念!
「コルコバードの丘スニーカー」ピンバッチ
伊藤ゴロー自らデザインを手がけたピンバッチです。
今回のアルバムはブラジルのリオデジャネイロで、レコーディングからミックス、マスタリングまでやってきました。
リオにいる間は毎日コルコバードの丘がみえました。コルコバードにはとても巨大なキリスト像があって、リオの街のどこからでも見る事が出来ます。僕は時間がなくて実際に行けませんでしたが、尚美ちゃんは登ってきました。その時に、尚美ちゃんがコルコバードから撮った写真が『Bossa Nova Songbook 2』の 裏ジャケットに使われています。
リリース記念にピンバッチを作るということで、男の人でもつけられるようにと思ってスニーカーにコルコバードを描いてみました。
昨年、ボサノヴァ生誕50周年を記念したジョアン・ジルベルト来日公演パンフレットとして制作されながら、公演中止によりお蔵入りとなっていた幻のアイテムが登場!
土屋賢二、清水ミチコ、大貫妙子ら、ジョアンをこよなく愛する各界著名人からの寄稿文で構成された、ジョアンファン必携の一冊です。
対談のあと、
ジョアン・ジルベルトの「O SAPO」をセッション。
細野さんにとって初のボサノヴァ演奏体験となった。