music BATON 第63走者:渡辺あや wrote:
たとえば役者がひとつのセリフを言う。
芝居を「訓練の成果を見せるときだ」と思っている人と、
「今この瞬間の反応でしかない」と思っている人では、
同じセリフでも聞こえ方がまったく違う。
声はつねにその人に関するたくさんの裏情報をのっけており、
それ込みで相手に届いてしまう。
だからあるセリフが本当に人の心を動かすときというのは、
内容以上にそれを言った「声」が正しいのだと思う。
毎日そんなことを考えているせいか、
CDをかけてもやはり声を聴いていることが多い。
商品としてきれいにパッケージされた声は、日曜日によく聴く。
まぬけな消費者でいることをゆるしてくれる気がして、
ポッキーみたいな感じで行楽のお供にもよく持っていく。
うっかり開いちゃった他人の日記、のような声は、
一人でいるときに、あるいはイヤホンで聴く。
歌詞の言葉が井戸に投げる小石のように、
さりげなくも適切に選ばれていると、
意味が分からなくても、何度聴いても、同じ感情や印象をもらえる。
聴きながら泣いてしまい「なんで泣いたんだ?」と思って、
歌詞を調べたら「なるほど」ということもよくある。
きっと声の伝えるものが、言葉を介さずとも私に響くのだろう。
楽器のことはあまり分からなくて、よく疑問に思っているのは、
やっぱり音にも声と同じように、はからずも弾き手の秘密を
ばらしてしまうようなことがあったりするのかしら、ということだ
。
音楽家のみなさま、またおしえてください。
渡辺あや Aya Watanabe
脚本家。
1970年 兵庫県生まれ。島根県在住。
2003年に映画「ジョゼと虎と魚たち」で脚本家としてデビュー。
【主な作品】
映画「ジョゼと虎と魚たち」「メゾン・ド・ヒミコ」「天然コケッコー」
「ノーボーイズ・ノークライ」
ドラマ「火の魚」「その街のこども」
阪神・淡路大震災15年特集ドラマ「その街のこども」が、
5月5日こどもの日の午後4時45分からNHK総合で再放映されます。
ぜひご覧ください。