2004年の『CHASM』以来、実に5年ぶりとなる坂本龍一のソロ・アルバム『out of noise』が完成した。この間、カールステン・ニコライやクリスチャン・フェネスなど“音響系”と呼ばれるアーティストとコラボレーションをしたり、またイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)として二十数年ぶりの海外公演を行いテクノとファンクの融合を試みたりと、実に精力的な活動を続けていた。それらを通じて得られた成果をベースとしつつ、「自分の聴きたい、好きな音を、大きなキャンバスに置いていった」と自身が語るように、本作は音の一つ一つ、音場の隅々まで、坂本の醗媼韻・咾・譴燭發里箸覆辰討い襦ま
耳を傾けてみて分かるのが、これは“響き”を重視したアルバムだということ。もちろん、自身が奏でるピアノの響きがベースになっているのだが、その上に実にさまざまな要素が付加されている。中でも注目してほしいのは、昨年10月に訪れたという北極圏で採取した音。ハンディ・レコーダーや水中マイクを駆使して録られた“氷河の下を流れる水の音”、“そりを引く犬の鳴き声”、さらには“氷の洞穴で鳴らしたベルの音”など、冷たい空気をそのまま写しとったようなトーンだ。そんなトーンを背景に、ゲスト参加の小山田圭吾(コーネリアス)のギターなどが巧みにミックスされ、全体としては複雑な織物のようなサウンドが広がっていく。
『out of noise』……“ノイズの外へ”もしくは“ノイズから”とでも訳されるタイトルだが、ここでのノイズはいわゆる雑音のことではなく、“楽器によって奏でられたものではない音”の意味だろう。もともと自然界に存在する音を採取し、それにほんのちょっと手を加えることで音楽へと変貌させる。あたかも自然から音楽をすくい上げるようなその手腕を、とくと味わっていただきたい。
(國崎晋/サウンド&レコーディング・マガジン編集長)