坂本龍一、SKETCH SHOW、HASYMO、半野喜弘らのリミックスを中心に、ライブなどで披露され話題を呼んでいるセルフ・リミックスも初収録した新作。
すでに聴き馴染みのある楽曲が、AOKI takamasaならではの大胆な再構築により新鮮な響きでもって聴く者の耳に迫ります。
AOKI takamasa初のリミックス集『FRACTALIZED』がリリースされた。HASYMO、坂本龍一、SKETCH SHOW、半野喜弘らのリミックスを中心に新曲までも収録された新作だが、そのタイトルに使われた"フラクタル"(数学者マンデルブロが提唱した幾何学概念:図形の部分と全体で自己相似形が現れる)の通り、ここまでAOKIらしさが全開になった作品が出てくるとは思ってもみなかった。鋭角かつ性急でありながらどこまでも磨き込まれたビート、大胆な再構築、クールさと熱さとが同居したサウンドスケープ──。古くから彼を見ているファン達にとっても全く期待を裏切らないアルバムであると言えるだろう。
ここに彼の最新インタビューをお届けする。新作同様、AOKI takamasaという一人のアーティストの"個"がよく現れているのではないかと思う。最近は写真家としても活躍するAOKIだが、個人的にはその作品や人柄に、今では殆ど失われた"ロック"的なものを強く感じるのだが、いかがだろうか。それは全てを欲して全てを標的にする、ひとりのアーティストとしての業や意欲の部分である。
─今回の新作は、AOKI takamasa初のリミックス集です。そもそもAOKIさんにとってリミックスとはどのような意味を持つものですか?
基本的には原曲を作られた方々へのリスペクトの気持ちを曲に表しています。もともとの原曲があるので、普段飛ばないところまで飛ばしてもらっているような感覚があります。スペース・シャトルに付くブースターのようなものが自分に付いた感じに近いかな。
─アルバム・タイトルが『FRACTALIZED』、初のリミックス集を"フラクタル"という概念で表現しようと思ったのはどういうことなんでしょう?
僕にとって、リミックスというプロセスは「フラクタルな状態にするもの」と感じているんです。リミックスというものはアーティストごとに手法もツールも発想も違うし、もちろんノウハウも違う。本当は色々な手法があるのにそれをひとつに括ることはあまりしたくない。そこで僕は自分だけの言葉を使いたいと思って、"Fractal"という言葉を「フラクタルな状態にする」という意味で"FRACTALIZED"に変化させてみたんです。
─AOKIさんにとってのリミックスが(対象を)フラクタルな状態に持っていくことだということは......
まずは、対象を自分にとってより心地よい音にさせてもらうということですよね。例えば車を買ってきて、タイヤを変えて、シートを変えて、色を変えて、挙げ句の果てにはフレームも変えて6輪にしてみるとか(笑)。リスペクトしつつもそこはやはり他のアーティストの作品ですから、自分では絶対入れない音、自分じゃ置かない音もあります。それを自分の心地良い場所に置き直して形を変えたりする。
─それぞれのアーティストの作品でありながら、当然のことながらAOKI takamasaの作品でもある、と。
皆さんのお力をお借りしているという気分ですね(笑)。他の方の曲を使わせていただいて、リスペクトをもってよりAOKI takamasaらしくしてお返ししようと。原曲と僕の相乗効果、シナジーを狙っている。このリミックス集には自分の好きな音しか入っていないし、イヤな音は一音も入っていないし、全ての音が自分の心地良いタイミングで鳴っていると思う。結局、自分自身の音になっています。このことは年を追うごとに洗練されてきた気がしています。年々、シンプリファイされてきている感じですよね。恥ずかしいぐらいに自分自身です。
─より自分自身に近づくというか、リミックスだからこそ、逆にAOKI takamasaの素の感性が出るという感じ?
もともとが他の方々の曲だから、余計にね。その音をどう捉えているかがバレるといいますか。
─そもそも制作過程はどのようなものだったのですか?
リミックスを頼まれた曲も、こちらからリミックスさせてほしいと頼んだ曲もありますね。例えば坂本さんの「composition 0919」に関しては『out of noise』から1曲リミックスをやらせて下さいとお願いしたんです。でも、どの曲も全て手の加えようがなくてね。本当にどれも、引きようも足しようもない(笑)。もう、胃に穴が空くぐらい悩みに悩んで(笑)。
―(笑)
収録曲の中でも、ストラクチャーがはっきりしていた曲が「composition 0919」で、これをやろうと。でも難しい。2ヶ月ぐらい作業が進まず、全然できなくて。もう大変ですよ(笑)。その締め切り3,4日前に、坂本さんのベルリン公演を撮影してほしいという話が来たんです。撮影しながらも「曲、どうしようかな」とか思っていたら、坂本さんがコンサートで「composition 0919」を演奏されたんです。これが、ものすごくブレているんですよ。今まで聴いていたCDとは全く違って聞こえるわけです。このブレこそが、オーガニックなバイオリズムと言えるんじゃないかなと。自分がずっと求めていたものに近いものを感じて。
─生演奏に触れて、改めてその曲のバイオリズムに気付かされた、ということ?
そうですね。今まで僕が聴いていた「composition 0919」は完成されたものだったので、足しようもないし引きようもなかったわけです。でも生演奏に触れて、そのバイオリズムに触れることで、純粋にオリジナルを自分のバイオリズムに変換すればいいんだということに気付いて。
─それ、すっごくいい話ですね。
でしょ! だから、実際に坂本さんのコンサートを観ることができて写真も撮れたということが、自分の中ではとても大きなことでしたね。あのチャンスがなかったら、"composition 0919"のリミックスはできなかったかもしれません。もともと自分からこれをやりたい!と言ったのに、本当に最後の最後で勘弁してくださいと言っちゃっていたかもしれない(笑)。
─その甲斐あって、すごくいい出来のリミックスだと思いますね。
ありがとうございます。もともと、僕の「the elegant universe」(2004年:アルバム『simply funk』収録)という曲を坂本さんがすごく好きだと言って下さっていて。同じようなストラクチャーを持つ曲なんですけれどもね。もちろん当時と同じことではなく、同じような視点で今だからこそできるものをやりたいなと思っていました。
─他の収録曲に関しては?
「RESCUE」、もともとこの曲がすごく好きだったので。YMOのライヴDVDを観てこの曲がとても印象に残っていましたしね。「ASCARI」は自分の既存の曲で、ライブ用にいろいろとアレンジしたものがありました。3曲目「MARS」は2003年にTHE SKETCH SHOWのお二人から「この曲をやってくれ」とのお話をいただいたものです。「FRACTALIZED」は新曲ですね。「War & Peace」は坂本さんから「『CHASM」から曲を選んでリミックスして欲しい」とオファーをいただいたものです。「LOVE BITES」と「Music for Sweet Room on the Orbit of the Earth」は自分の曲のリミックスで、9曲目の「re-platform」は半野喜弘さんとのものですね。
─先にも少し話に出たとおり、すごくAOKI takamasaらしい作品=リミックス集になっていると思います。"らしさ"ということでいえば、以前、細野さんが「エレクトロニカという音楽は、人間ひとりひとりがもっているグルーヴや音楽が凄く良く現れるものだ」とおっしゃっていたんです。それについてはどう思います?
よくわかりますね。ただ僕は、ジャンルという概念は取っ払いたい。ジャンルは国境と同じようなもので、ジャンルを作ることによって人間の意識を狭くする気がするんです。分化する、分ける、分裂することで盲目になっていくでしょう。それはできる限りなくしたいと思うんです。"エレクトロニカ"という言葉はできるだけ使いたくない......ちょっと話がズレちゃいましたけれど(笑)。
─前作『Private Party』のジャケットの内側で使用されている写真もそうですが、今作でも自身の写真がジャケットにフィーチャーされていますね。「装苑」誌で撮影を行うなど、すでに写真家としての活動も活発になってきましたが、そもそも、写真はいつ頃から?
中学時代にオトンがキャノンのEOSを買ってそのままになっていたので、僕が使いはじめたのがきっかけになるのかな。でもそこから音楽に興味が向いてしまって、写真は一時期やっていなかったんですけど、大学に入ってからまた(フィルム)カメラを撮り出しました。その頃同時にデジカメも使い出したかな。
─以前から興味はあったんだ。
そうです。それで、ブログのクオリティをもっと上げたいと思って、中学時代からやっていた写真をもう一回ちゃんとやってみようと思って中古屋さんに行ったんですね。そしたら結構安くて、昔欲しかったカメラが数万円で手に入って。それからですね。自分が「あ! 撮りたい!」と思ったところを撮って評価されるというのはラッキーですね(笑)。
─なんて正直な(笑)。でもやっぱり、当然のことかもしれないけれど、共通した感覚は感じられますよ。
今の風潮だと、何かに特化した人間になるのが良いとされたりするけど、人間ってそんなんじゃないと思うんです。もっと汎用性のある、幅広い生きものだと思う。僕も、自分にどんどん正直になっていく課程で音楽がイヤになるときもあるし、他のなにかが楽しいときもある。そういうとき、一番最初にはじめた写真という手段が一番自然に自分自身を表現できているように感じます。
─自然な選択だった、と。
そうです。だから写真は新たな表現手段の発見というより、自分を受け入れているという感じかな。自分と向き合って、自分のイヤな部分も恥ずかしい部分も含めて認めていくということが、自分にとって楽なことになったというか。流行がどうこうということではなく自分が好きなことをやるという、ね。
─ひとりの"個"としてのAOKI takamasaを生きていく、ということ?
そうかもしれませんね。変えようと思った部分を受け入れて、"個性"をブースターとして使う(笑)。リミックスの話に近いかもしれませんね。結局のところ人は人を変えられないと思っています。ただ、僕の音楽や写真、もしかしたら会話も含めた全てが、その人が今までとは違うものを選択する良いきっかけになるといいなとは思っています。例えば『2001年宇宙の旅』の中で、ブラック・モノリスに触った猿が、骨が武器になるということに気づきますよね。今まで見たことのないものや、新しいことに触れたからこそ入るスイッチがあるということを、このシーンは表していると思います。まさにそれと同じようなことが今の人間に起きればいいなって。自分の音楽、写真、視点を見ることによって、今までとは全く違った選択を、その人自身ができるようになればいいというか。誰かに「これ選べ」「こっちは悪いからこっちを選べ」と言われて選ぶのではなく、自分自身で「こっちを選びたい」と思えるようになって欲しい。進化のための新たな選択のきっかけ、かな。自分や自分の作品が、それを促すような良いきっかけになったらいいなと思っています。
─そのメッセージ性、いいですね。
言いたいことは本当にたくさんあるんですよ。今の日本人に言いたいのは、「日本は凄いぞ、もうちょっと自覚してくれ、Wake Up!」ということかな。僕はテクノのオリジンを知るためにヨーロッパに行ったわけですが、それと同時に、日本の文化の凄さを理解した気もしますね。"灯台下暗し"という言葉の重みを自覚しました(笑)。そもそもこれだけ平和な概念を持った文明はあまりないんじゃないかなと。
─なるほど視野が広いなぁ。最後にcommmonsmartの読者に対して、「これだけは言っておきたい」ということはありますか?
Tシャツ買ってくれ! かな(笑)。
─あれ。
だってかっこいいでしょ!(笑)
インタビュー・文/熊谷朋哉(SLOGAN LTD.)
アルバム・リリース記念Tシャツが登場!
AOKI takamasa自らが撮影し、アルバムのジャケットにも使用された写真をプリントしたTシャツが登場! 肌触りのよいオーガニックコットンを使用し、ネック部分のタグ裏にはオリジナルスタンプが押されるなど、随所にこだわりが見られる逸品。本人も相当お気に入りのようで、今回のインタビュー時にも着用されておりました。
デザインはsheep、records、dollsの3種類から、お好みで!